NGO タイ・バングラデシュ派遣研修・活動 2008年

 開発途上地域で環境NGO活動をめざす人のための「タイ・バングラデシュ派遣研修・活動体験コース」に家族が参加しました。主催は独立行政法人環境再生保全機構地球環境基金部。協力、ラムサールセンター(注1)
 メンバーはスタッフを除いて院生7人、学生2人です。
 
開発途上地域の環境は改善されていません。底流には貧困、環境認識の遅れ、資金・人材不足などがあり、一国だけでは容易に解決できません。国際社会、NGO、市民などの協力、支援が欠かせず、日本の役割は重要になっています。
 この研修の狙いは、開発途上地域での環境保全活動に関心をもつ人たちに海外でNGO活動に参加してもらい、わが国の環境NGOによる国際協力に関する人材育成をめざそうとするものです。
 今年度は、タイ、バングラデシュの2国で、「アジアの環境問題の現状/
マングローブ林再生/自然資源の持続可能な利用/生物多様性保全/気候変動災害適応/住民参加/環境教育」をキーワードに、実践的な研修プログラムで実施されました。
 プログラムは7月の事前研修に始まり、11月下旬の報告会で終わります。環境NGOに関心を持つ方はぜひ来年度以降の研修に参加されることをお薦めします。今年度の概要は以下のとおりです。

【おおよその応募資格】
①開発途上地域における環境NGO 活動への参加に関心を持っている。
② 18 歳以上の男女で、高校生は不可。未成年者は保護者の同意が必要です。
③ 簡単な日常英語を理解できることが望ましいです。

【参加費】
5万円。不足分は、環境再生保全機構が負担。

【日時 プログラム 滞在 】
8月27日 東京(成田)~バンコク
     バンコク・マヒドン大学(注2)ゲストハウス泊
  28日 国際セミナー「アジアの環境問題と国際協力」に参加、研修
  29日 国際セミナー「アジアの環境教育の実際と国際協力の重要性」に参加、研修
  30日 午前:バンコク~スラタニ 午後:セミナー「生命の源:タイ湾の価値」に参加、研修 スラタニ・ホテル泊
  31日 午前:現地行政機関訪問、研修。午後:バンドン湾マングローブ林、エビ養殖跡地等視察スラタニ・ホテル泊
9月01日 現地ホームステイ 午前:マングローブ植林活動を体験研修。午後:地元住民(漁民)とのワークショップに参加、研修

ホームステイ


  02日 午前:「沿岸管理への住民参加」プロジェクトを体験研修。午後:マングローブ林再生プロジェクトの視察、研修(注3)

マングローブの再生


 03日 スラタニ~クラビ(バス) 
04日 クラビ・ホテル泊 日 午前:クラビ河口干潟再生プロジェクト視察、研修。午後:セミナー「水鳥フライウェイ重要湿地」に参加、研修
05日 午前:アマルトパニチュヌクル中学校の環境教育プログラムに参加、研修
06日 クラビ~バンコク  バンコク・ホテル泊
07日 午前:タイ研修のまとめ。午後:集約コースは帰国へ
08日 バンコクダッカ
09日 ダッカ・ホテル泊 日 国際セミナー「バングラデシュの環境と NGO バングラデシュ・ポーシュの活動(注4)」に参加、研修
10日 午前:セミナー「バングラデシュ NGO 会議」に参加、研修。午後:ダッカ市内の都市環境問題の視察、研修
  11日 ダッカ~コックスバザール(バス)
  12日 BDP「気候変動災害リスクマネジメント」プロジェクトサイトのモヘシュカリ島ドルガダ村現地視察、研修 ホテル泊
  13日 午前:コックスバザール~モヘシュカリ島ドルガダ村。午後:地元住民(漁民)とのワークショップに参加、研修 モヘシュカリ島・ 現地滞在
  14日 「気候変動災害リスクマネジメント」活動を体験研修(沿岸低地帯の自然環境復元再生/マングローブ植林)
  15日 午前:モヘシュカリ島ドルガダ村~コックスバザール。午後:研修のまとめ。コックスバザール・ホテル泊
  16日 午前:市内の環境視察、研修。午後:コックスバザール~ダッカダッカ・ホテル泊
  17日 午前:まとめと評価。午後:フリー
  18日 ダッカバンコク トランジット
  19日 バンコク~東京・成田

(注1)ラムサールセンター(RCJ):ラムサール条約と湿地の保全・賢明な利用の促進に取り組む、1990年設立のNGO(事務局東京)。アジア湿地シンポジウムの開催を中心にアジア各地で政府、NGOと連携して活動をしている。

(注2)マヒドン大学環境・資源管理学部:バンコク西部サラヤ地区にある王立大学の自然と環境に関する学部。湿地と水環境の調査・研修センターを併設し、メコン川流域の環境系大学の国際ネットワークの要となっている。本研修コーディネーターのサンサニ・チョーウ准教授は2008年ラムサール条約国際湿地保全賞受賞者。

(注3)ウエットランド・インターナショナル・タイ(WIT):国 際NGO「Wetlands International」(本部オランダ)のタイ支部。政府と協力し南部タイのラムサール登録湿地の保全を中心に渡り鳥の保護、マングローブ再生、貧困軽減、環境教育などに取り組んでいる。地球環境基金助成事業「東アジア・オーストラリアフライウェイ『湿地の学校』ネットワーク」のカウンターパート団体。コーディネーターのアセ・サヤカ代表は日本の湿地専門家、NGOと親交が深い。

(注4)バングラデシュ・ポーシュ(BDP):ダッカに本部をおく環境・開発NGO。1983年設立。国内各地で学校に行けない貧困家庭の子どもへのノンフォーマルスクール運営と南部バングラデシュ辺境地域における環境保全と社会開発の両立をめざす活動で知られる。地球環境基金助成「モヘシュカリ島沿岸村落の気候変動災害リスクマネジメント開発モデル事業」を推進中。コーディネーターのサノワ・ホセイン代表(IUCN会員)は国際的な環境活動家。

各家には船着き場がある



巨大なエビの養殖池


研修を終えて

私たちが訪れたタイとバングラデシュの現地では、環境問題が日々の生活と密接に関係していて、
人々は、それぞれが将来のことを真剣に考え、生きるために開発と環境の共存を目指していた。明確
で切実な目的がコミュニティ全体で共有され、NGO の必要性が自然な形で理解されていた。
だから人々は、積極的にNGO の活動に参加していて、それはコミュニティの絆を深めているよう
にすら見えた。これが今回の研修のタイ、バングラディシュで感じたことである。
1年前、私は大学の講義で「NGO市民社会」というテーマのプレゼンテーションを行ったが、
帰国してから資料やレポートを見直してみて、当時の私の認識が「外部から来た」NGO がその対象
地域の問題を改善するというイメージに偏っていて、現地住民の活動参加については、あまり重要視
できていなかったことに気がついた。
しかし、今回の研修を終えて、今の私は、環境保全や開発における住民参加の重要性をはっきりと
認識し、あの時とはまったく違った見解を持っている。これは現地に足を運び、人々のパワーを感じ、
初めて心から理解したことである。
そして私は、日本の場合を考えてみた。はたして日本の人々は、開発と環境の共存の重要性をどれ
だけ理解しているのか。日本は開発途上国と比べ、環境問題に対して、進んだ取り組みを行っている
ように思っていたが、実際のところ、ひとりひとりの問題意識の低さは否めないと強く感じた。
私たちの周りでは、環境問題が生活に直接的で、かつ深刻な害を及ぼすケースが少ないため、どう
しても問題意識は高まりにくい。よって、改善に向けた活動への住民参加も進まない。これは日本で
NGO への理解がなかなか深まらない一因でもあると思う。だから私たちは、この研修で学んだこと
を周りに広めていかなければならない。
また、今回の研修では、NGO や国際機関、国連、政府、現地住民といったさまざまなカウンター
パートと接した。それぞれの立場からのアプローチを知ったと同時に、そこにある人と人との繋がり
を肌で感じることができた。これは、貴重な経験だった。
来年、就職活動を迎える私としては、今後NGO の活動にどのようにして関わっていくかを、常々
考えていた。しかし、今回の経験を通じ、NGO を進路として選ぶか否という選択の前に、学ぶべき
こと、身につけるべきスキルがたくさんあることを痛感した。
まずは、今回の経験を今後の学びに生かしていきたい。勉強だけでなく、学生である今だからこそ
できることにも、今まで以上に積極的に取り組んでいきたい。そして社会に出て、前に進む中で、自
分の足りていない部分を身につけ、その後NGO の活動に携わることを目標としたいと思う。
ウエットランド・インターナショナル・タイ(WIT)やバングラデシュ・ポーシュ(BDP)、そし
てラムサールセンターの活動に接し、その力強い動機づけを得たことも、私にとっては大きな収穫で
あった。
最後に、今回の研修でお世話になった方々、現地で中身の濃い時間を一緒に過ごした6 人の研修生
に、心からお礼を申し上げます。たくさんのお力添えをいただき、本当にありがとうございました。
そして、これからもよろしくお願いします。