昔つれづれに(6) 世界が見える地図収集 1990年2月23日

 

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自宅にある地図の宝庫「酒斎」で

 

 業界では、実務派、行動派として知られる。昭和39年、昭和電工が社運をかけた大分石油化学コンビナートエ場建設の実行責任者としてさい配をふるった。企業小説「生命(いのち)燃ゆ」(高杉良著)に登場する「西本専務」は岸本会長をモデルにしているといわれる。

 56年、サラリーマンの階段をコツコツ上りつめ十代目社長に就任。工場勤務の長い、初の″たたき上げ社長〃として話題になった。

 生活のモットーは「人生最大のミスは、言うだけ言ってやるべき事をやらないこと」。男性的で飾らない人柄が持ち味。 世界各地の地図の収集に情熱を傾けている。「室内五種競技」と称する囲碁、将棋、マージャン、花札、ブリッジは相当の腕前とか。

 川崎市の自宅の庭には「酒斎」と銘した地図の″宝庫″がある。高さ2メートル、幅3メートルの書架6列には世界各地の地図がきちんと整理されている。

 「自分だけの発見って、楽しいですねえ。外国で、汽車から見るさまざまな風景。肉眼では見えないが、その向こうに飛行場があることは地図をみればわかります。以前、南米のアマゾン川が、ベネズエラを流れるオリノコ川上流で合流しているのではないか、ということを調べたことがあるんです。現地の人に聞いても確かめられません。絶版になっていた地図ができたというので、見たらちゃんと書いてあるんです。NHKが、合流地点を空撮して確認するまでに5年余りかかりました」。少年のような目の輝きであった。

 地図との出合いは、小学生のころにさかのぼる。教室に張られている世界地図の前で、国名を当てて遊んだり、故郷の岡山市の家並みが一軒ずつ正確に描かれているのを見て、びっくりした。

 今、地球儀などの曲面地図に熱中している。市販の地図では、両極地帯に近づくにつれて、ひずみが大きくなる。実際には、それほど距離がないのに、平面図で見た場合では、大変な距離があるように思えるのだ。「それは、球を平面に書こうとするからでね。曲面に書いてみたら、というのが私の希望」。折りたたんだ紙風船が頭に浮かぶ。「これですと、見たい部分を中心にたためますし、方向感覚も常識とかけ離れません」 

  仕事柄、海外の人たちと接する機会が多い。「相手国を理解するうえで、その国の教育用地図帳を推薦したいですね。できれば高等学校で使うレベルのもの。その国の人でも全部は知らんくらい詳しい。各種統計や主題図がもれなく入っています。データは、時間とともに変わりますが、それを抜きにしても一流の資料ではないでしょうか」

 

昭和電工代表取締役会長 きしもと・やすのぶ 岡山市生まれ。東大工学部卒。昭:和17年、昭和電工へ入社。出社1日で、陸軍の招集を受け中国大陸へ。復員後、川崎、横浜両工場長を経て、51年に副社長。56年、社長。62年から現職。70歳。

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