昔つれづれに(3) 町おこしの記事に誘われて夏休み

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旧・小国小学校

 「懐かし木の学び舎で合宿いかが―廃校の母校活用、住民交流の宿に」。1989年6月14日付夕刊に載った記事の切り抜きに目が止まった。

 山形県温海町の若者らが「壊すにはしのびない。都会人に使ってもらえないだろうか」と母校の小学校校舎解体に「待った」をかけたという。

 私は問い合わせ先に電話してみた。「お待ちしています」という職員の言葉に、「温海町山村振興センター」を訪ねることにした。

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 JR羽越線あつみ温泉駅に、家族と下車したのは8月17日だった。あつみ温泉駅から廃校になった小国小学校へは、海岸線から10キロあまり山あいに入る。バスは県道を東に小国川の清流に沿って走る。バスを降りて県道を右に折れると、村唯一の出入り口ともいえる広い道路がまっすぐ南にのびて民家が軒を並べる。四方を青垣の山に囲まれた107世帯、450人余の小さな農村集落だ。突き当たりに小学校の体育館があり、校舎まで歩くこと10分、私たちの宿にたどり着いた。

 庄内三楽郷のひとつとして栄えるこの町も過疎対策は行政の大きな柱だ。平成2年の国勢調査では、この町の人口は1万3千人。昭和60年比で減少率は6.8%、900人余が流出している。

 昭和53年に開校百年を迎えた小学校は、 一時230人の児童数を数えたが、閉校した平成元年は40人余になっていた。校舎は昭和30年に建てられた木造2階建て、6教室。管理人室の当番は町のボランティアだ。夏休みだけ、常勤者2人がアルバイトで出ている。

 ここでは自炊が鉄則。料理は利用者が給食室で作る。必要な調理器具、食器は揃っている。買い物は歩いて5分のところに村の食料品店がある。冷蔵庫があるので買い置きがきく。畳敷きにした教室が宿泊場所だ。

 気になる運営経費だが収支はトントンだそうだ。町から年間百万円の補助金が出ている。主な支出は光熱費や日直の手当のほかに意外とかかるのがプールに関わる費用だ。

 都会と農村とのふれあいといっても難しい。宿泊申込書には、こんな項目があった。「住民との交流会を希望しますか」。町では近隣町村の希望を聞いたうえで声をかける。

 町役場の五十嵐正治さんは「農村と都市とのコミュニケーションがとれてきたこと。みんなで、ひとつのことを続けてきた自信が大きい」と期待する。自然と人のやさしさに触れ、充実した夏休みだった。

 

◇利用料金は大人1泊保険料込みで1,500円。子供1,000円。問い合わせは、同町山村振興センター(0225―47―2921)へ。(東京Y・T)

                               1994年8月 社報

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宿泊施設に衣替えした小学校