峠の力餅

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1箱も売れない日もある。それでも立ち続ける=2015年8月、峠駅で

 山形県米沢市のJR奥羽線・峠駅。文字どおり板谷峠に近く、標高は622メートルと奥羽本線で最も高い駅です。巨大な雪囲いに覆われた薄暗いホームに、各駅の列車だけが停まります。周囲の山々に囲まれた駅は無人で、峠には上下各6本しか電車が停まらない「秘境の駅」です。

 

 「ちからーもちぃー、峠名物、ちからーもちぃー」

 

 はっぴをまとい、昔ながらの木箱を抱えた売り子さんが車窓に寄って来ると、千円札を予め用意した乗客が買い求めています。列車が動き出す30秒が勝負の立ち売り。「峠の力餅」は、駅前の「峠の茶屋」が明治の時代から作っているこしあんの大福です。8個千円。親指と人差し指を丸めたぐらいの大きさで、甘さ控えめ、餅はよく伸びます。
 子どもが通う大学が山形市内にあるご縁で、私のようなファンは新幹線ではなく、あえて各駅停車に乗って、「今日も売ってるかな」と楽しみにするようになりました。
 わずかな停車の間にすばやく販売する光景。駅弁も含めて、立ち売りのスタイルを守っている駅はもうほとんどないようですね。
 今日も立ち続ける売り子さん。米沢駅方面に向かうときは、在来線に乗ろうと思います。