
雑誌をめくる時間が、いつしか私にとって小さな旅になっていました。ページの向こうに広がるのは、暮らしの知恵や、誰かの台所の風景。とりわけ料理のレシピに惹かれるのは、私自身が日々台所に立つからかもしれません。
ある日、ふと手に取った『クロワッサン』の特別編集号。誌面には、4人の料理家による家庭料理のレシピが並んでいました。川津幸子さんの簡潔なコツ、重信初江さんの国際的な味覚、牛尾理恵さんの栄養バランス、吉田愛さんの和食への情熱。それぞれのレシピに、作る人への思いやりが込められていて、読んでいるだけで心が温かくなります。
読者の声も印象的でした。「料理が苦手だったけれど、好きになった」「家族の定番になった」——そんな言葉のひとつひとつに、雑誌が暮らしに寄り添っていることがにじみ出ています。
『クロワッサン』は1977年の創刊以来、料理、健康、美容、カルチャーまで、生活にまつわるあらゆるテーマを扱ってきました。「女の新聞」として始まり、今では性別や年齢を問わず、誰にとっても役立つ“暮らしのバイブル”のような存在です。
編集長の言葉が心に残ります。「まず自分の暮らしを大事にすること」。その姿勢が誌面づくりに活きているからこそ、読者の生活にも自然と寄り添えるのだと思います。
次号(25日発売)の特集は「老舗のいいもの」。変わらないものの美しさ、職人の誠実さに光を当てる企画だそうです。時代を超えて愛される理由を探る旅も、また楽しみです。
雑誌を読むという行為は、情報を得るだけではなく、誰かの暮らしに触れることでもあるのかもしれません。『クロワッサン』を通じて、そんな静かな感動に出会えた気がしました。
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以下は『クロワッサン・特別編集』増刊号からの抜粋です。




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<あとがき>
出版業界は、依然として厳しい状況が続いています。出版科学研究所の調査によれば、紙の雑誌の推定販売金額は最盛期だった30年前の水準から、現在では3分の1以下にまで減少しているそうです。
多くの雑誌が存続の危機に直面するなか、雑誌文化を次の世代へ受け継ぐための取り組みも始まっています。デジタルとの融合や、読者と共につくる誌面――その新たな挑戦が、未来への扉を静かに開きつつあります。
雑誌には、作り手のこだわりや温もりが宿っています。ページをめくるたびに、どこにも載っていない貴重な物語が広がり、それに出会えたときの胸の高鳴りは、何ものにも代えがたいものです。深夜の静かな部屋でひとりページをめくるとき、そこに現れる世界――それは、誰かの心の奥で語られずにいた言葉なのかもしれません。
人の感性が紡ぐ誌面の余韻は、どれほどAIが進化しようとも再現できない、唯一無二の宝物です。この連載が、雑誌の魅力と、その存在の意味をあらためて感じるきっかけとなれば幸いです。