雑誌の散歩道:「クロワッサン」第6話

 雑誌をめくる時間が、いつしか私にとって小さな旅になっていました。ページの向こうに広がるのは、暮らしの知恵や、誰かの台所の風景。とりわけ料理のレシピに惹かれるのは、私自身が日々台所に立つからかもしれません。

 ある日、ふと手に取った『クロワッサン』の特別編集号。誌面には、4人の料理家による家庭料理のレシピが並んでいました。川津幸子さんの簡潔なコツ、重信初江さんの国際的な味覚、牛尾理恵さんの栄養バランス、吉田愛さんの和食への情熱。それぞれのレシピに、作る人への思いやりが込められていて、読んでいるだけで心が温かくなります。

 読者の声も印象的でした。「料理が苦手だったけれど、好きになった」「家族の定番になった」——そんな言葉のひとつひとつに、雑誌が暮らしに寄り添っていることがにじみ出ています。

 『クロワッサン』は1977年の創刊以来、料理、健康、美容、カルチャーまで、生活にまつわるあらゆるテーマを扱ってきました。「女の新聞」として始まり、今では性別や年齢を問わず、誰にとっても役立つ“暮らしのバイブル”のような存在です。

 編集長の言葉が心に残ります。「まず自分の暮らしを大事にすること」。その姿勢が誌面づくりに活きているからこそ、読者の生活にも自然と寄り添えるのだと思います。

 次号(25日発売)の特集は「老舗のいいもの」。変わらないものの美しさ、職人の誠実さに光を当てる企画だそうです。時代を超えて愛される理由を探る旅も、また楽しみです。

 雑誌を読むという行為は、情報を得るだけではなく、誰かの暮らしに触れることでもあるのかもしれません。『クロワッサン』を通じて、そんな静かな感動に出会えた気がしました。

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以下は『クロワッサン・特別編集』増刊号からの抜粋です。

おいしいと言ってくれる家族の笑顔がうれしくて繰り返し作りました。

世界中で親しまれる家庭料理を旅気分でいかが。

タンパク質と野菜を同時に摂って冷凍弁当も。

美味しいお弁当のハーモニーはおかずとおかずが手を取りあい引き立てあう美しさに。

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<あとがき>
 出版業界は、依然として厳しい状況が続いています。出版科学研究所の調査によれば、紙の雑誌の推定販売金額は最盛期だった30年前の水準から、現在では3分の1以下にまで減少しているそうです。
 多くの雑誌が存続の危機に直面するなか、雑誌文化を次の世代へ受け継ぐための取り組みも始まっています。デジタルとの融合や、読者と共につくる誌面――その新たな挑戦が、未来への扉を静かに開きつつあります。

 雑誌には、作り手のこだわりや温もりが宿っています。ページをめくるたびに、どこにも載っていない貴重な物語が広がり、それに出会えたときの胸の高鳴りは、何ものにも代えがたいものです。深夜の静かな部屋でひとりページをめくるとき、そこに現れる世界――それは、誰かの心の奥で語られずにいた言葉なのかもしれません。

 人の感性が紡ぐ誌面の余韻は、どれほどAIが進化しようとも再現できない、唯一無二の宝物です。この連載が、雑誌の魅力と、その存在の意味をあらためて感じるきっかけとなれば幸いです。