時は大正8年。芥川龍之介が汽車に乗り合わせた少女の振る舞いを描いたエッセイを読みました。
奉公先に赴く姉と、踏切で見送る弟たち。走る汽車の窓から、娘は勢いよく腕を振り、踏切にいる男の子たちにみかんを投げる。「暖かな日の色に染まっている蜜柑」が降り注ぐ。この描写が素敵ですね。色はもちろん、香りまで伝わってくるようです。
読後感の爽やかさは、「顔も下品、服も不潔」と荒んでいた芥川の気持ちが、少女が抱える背景や想いを知ったときの心情描写から感じとれます。このエッセイが100年前に書かれたことを感じさせない所以です。
貧しい農山村の家計を支えるため、奉公先に行く少女。文章の端々から、「口減らし」ということばが象徴する当時の暮らし向きが浮かびあがります。