山梨県忍野八海からの便りです。世界文化遺産・富士山の構成資産のひとつ「忍野八海(おしのはっかい)は湧池を含む八つの池からなり、環境省の名水百選にも選定されています。
富士山の頂から北東へ15キロの山裾に、山肌をしみ通った伏流水がこんこんと湧き出ています。
忍野八海の歴史をさかのぼると大変なアイデアマンがいたことがわかりました。
江戸末期に襲った天保の飢饉で復興事業を指揮した名主がその人です。
なぜ「八海」なのでしょう。ここに地名の鍵がありました。
その頃、富士五湖など八つの湖を巡った後に富士山に登ると、罪や穢(けが)れがとれ、極楽往生できるという「八湖信仰(富士講)」は、何日もかけて離れた湖を回らなくてはなりませんでした。
そこで、半日もかけずに回れればと、多くの池の中から八つの池を選び、名所にしました。
加えて、北極星を最高神と考える道教の信仰も採り入れ、北斗七星になぞらえた七つの池と北極星に見立てた出口池を配置。
さらに、それぞれの池に法華経の守護者である八大竜王をまつりました。こうして何重にも宗教的な意味合いを重ね合わせて忍野八海が出来上ったというわけです。
富士講の人々は湧池に入ってみそぎを済ませ、富士山に登ったといいます。
いま、忍野八海は外国人、特に中国人の観光客に人気です。当地の住職は「中国人は竜を皇帝の証しとして尊重する。日本のシンボル富士山と、八大竜王が示す竜の両方を味わえるのが忍野八海の特徴」といいます。
信仰と結びついた古(いにしえ)のアイデアは、いまも息づいています。